脳卒中や神経疾患で生じる『痙縮』とは?~今日のひと口メモ~

脳卒中分野

脳卒中や脊髄損傷など神経疾患では、臨床症状として『痙縮』と言われる病態を目にすることがあると思います。
しかし、皆さんが『痙縮』と思っている病態は果たして本当に『痙縮』なのでしょうか?
そもそも『痙縮』とは何でしょうか?定義を明確に答えれる方は少ないと思います。

今日は『痙縮』とは何か簡単にお話していきます。

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今回の内容

  • 痙縮の定義
  • 痙縮の評価
  • 痙縮の原因

痙縮の定義

1980年に提唱されたLanceの定義を翻訳すると、
痙縮は、速度依存的に緊張性伸張反射(筋緊張)が増大し、腱が過度に痙攣する症状を特徴とする運動障害であり、上位運動ニューロン症候群の1つの要素である伸張反射の過興奮性から生じます。
と言われています。

これを簡単に要約すると、痙縮とは
①速度依存的に緊張性伸張反射が興奮した状態
②腱反射の亢進
③上位運動ニューロン障害


これを踏まえると、関節を他動で動かした際の抵抗が強いだけでは痙縮とは言わず、また腱反射が過度に興奮した状態だけでも痙縮とは言えないということになります。

痙縮とは、上記定義の3つに当てはまったときに『痙縮』があると言えます。

痙縮の評価

痙縮は、速度依存的な伸張反射の亢進と腱反射の亢進が条件として重要であるため、臨床的評価は、①速度依存的な伸張反射評価、②腱反射検査の2つを行います。
①速度依存的な伸張反射検査では、主にMASやMTSを用いて評価します。
②腱反射検査は、打腱器で筋の腱部分を叩打することで生じる関節運動の反応を見て評価します。

①MASとは、Modified Ashworth scaleの略で、関節を他動的に動かした際の抵抗を、数値で表す検査となっています。
MTSとは、Modified tardieu scaleの略で、MAS同様に関節を他動で動かした際の抵抗感や抵抗が生じる角度を動かす速さ別で評価します。

Modified Ashworth scaleとModified tardieu scaleについては別記事で詳しく説明しています。


②腱反射検査は、打腱器を用いて腱~筋腹に向けて叩打した際の関節の反応を診ます。
腱反射の程度は筋、筋腱移行部、筋腹を叩打した際の反応で減弱~著明な亢進まで判定します。

痙縮の原因

痙縮の原因は主に、①神経学的要因と②組織学的要因に分けられます。

①神経学的要因
 伸張反射において、関節を他動で動かし筋が伸張された際の、筋の伸張情報は筋紡錘によって感知されます。
 筋紡錘からの情報は、感覚神経から脊髄後角に入り、脊髄前角のα運動ニューロンにシナプスされることで、筋が収縮し伸張反射が生じます。
 筋の伸張を感知する筋紡錘は、脊髄前角から出るγ運動ニューロンによって筋紡錘の感度を調節しています。
 γ運動ニューロンは、網様体脊髄路や前庭脊髄路などから促通や抑制のコントロールを受けています。

痙縮は、直接筋収縮に関わるα運動ニューロンの興奮性増大や抑制信号の減少、γ運動ニューロンの興奮性増大による筋紡錘の感受性増大、速度依存的な筋紡錘の伸張情報を脊髄へ送るⅠa線維の脊髄内での抑制減少が神経学的要因として考えられます。


②組織学的要因
痙縮の組織学的要因として、神経疾患の発症により、不活動になると筋組織の短縮や線維化などの拘縮が生じます。拘縮ではコラーゲン線維の配列変化だけでなく、腱組織の変性も生じます。
また、不活動が生じると筋組織の短縮が生じると筋節(サルコメア)が減少します。
このように、脳卒中などの神経疾患では不活動が生じることで、筋組織の筋節減少やコラーゲン線維や腱組織の配列変化が生じることで、筋紡錘の感受性が増加すると言われています。


痙縮はこれらの神経学的要因と組織学的要因が組み合わさることで生じると考えられています。

痙縮の治療については次回以降にお話しします。

まとめ

  • 痙縮とは、①上位運動ニューロン障害により、②速度依存性に伸張反射が興奮、②腱反射が亢進した状態である。
  • 痙縮の評価は、MASやMTSを用いた速度依存性な伸張反射評価と、腱反射検査を行う。
  • 痙縮の原因は、神経学的要因と組織学的要因が組み合わさって生じる。
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