脳梗塞は脳卒中の中で約70%を占めています。
臨床においても、脳卒中で入院される患者様は脳梗塞が非常に多いです。
今回は脳卒中の中でも発症率の高い脳梗塞の分類と、今回は特にラクナ梗塞についてお話していきます。
脳卒中の疫学については、『脳卒中の病態分類と疫学』でお話していますので参考にしてください。
今回使用した参考書籍を紹介しています。
今回の内容
- 脳梗塞の分類
- ラクナ梗塞の病態
脳梗塞の分類
脳梗塞とは、脳を栄養している脳動脈が何らかの原因によって狭窄や閉塞を起こし、脳細胞が壊死した状態を言います。
脳梗塞は臨床病型からラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因による脳梗塞、原因不明の脳梗塞(ESUS)の5つに分けられます。
発症機序による分類として、血栓性脳梗塞、塞栓性脳梗塞、血行力学性脳梗塞の3つに分けられます。
●脳梗塞の臨床病型分類
・ラクナ梗塞
⇨直径1㎜以下の穿通枝動脈の閉塞による、梗塞巣が15㎜以下の小さな脳梗塞。
・アテローム血栓性脳梗塞
⇨アテローム硬化(血管内のプラークや血栓)により閉塞が生じる血栓性と、アテローム硬化部にできた血栓が血流にのって、硬化部位よりも末梢を閉塞させる塞栓性の2つに分けられる。
・心原性脳塞栓症
⇨心臓の不整脈(特に心房細動)により、心臓内にできた血栓が脳動脈を閉塞して起こる脳梗塞。
・その他の原因による脳梗塞
⇨上記の原因以外では、動脈原性脳塞栓症、動脈解離、もやもや病、奇形性脳塞栓症、線維筋性形成異常症などがあります。
・原因不明の脳梗塞(ESUS)
⇨原因不明の脳梗塞は、塞栓源不明脳塞栓症(ESUS:Embolic Stroke of Undetermined Source)と言われています。
●脳梗塞の発症機序分類
・血栓性脳梗塞
⇨脳血管内がアテローム硬化により、血栓が生じることで血管が閉塞して脳梗塞を発症する。
・塞栓性脳梗塞
⇨頸動脈や心臓内にできた血栓が遊離して、脳血管を閉塞して脳梗塞を発症する。
・血行力学性脳梗塞
⇨頸動脈や主幹動脈に動脈硬化などで狭窄がある状態でも、脳自動調節能によって灌流量はなんとか維持されている。しかし、その状態から血圧低下や脱水、貧血が生じると動脈末梢領域は血流を保てなくなり脳梗塞を発症する(分水嶺梗塞)。
ラクナ梗塞の病態
ラクナ梗塞とは、穿通枝といわれる脳の深部や脳幹などの細い血管に生じる脳梗塞のことを言います。
ラクナ梗塞は、直径1㎜以下の穿通枝動脈が閉塞して直径15㎜以下の小さな脳梗塞が生じます。
主に、被殻や淡蒼球といった大脳基底核や視床、橋といった穿通枝動脈に支配されている領域に生じやすいと言われています。
●ラクナ梗塞の原因
ラクナ梗塞の原因には、血管変性による閉塞、穿通枝内の小さなアテローム形成による閉塞、血行力学性による閉塞などが主な原因として考えられています。
・血管変性によるラクナ閉塞
⇨持続的な高血圧により、穿通枝の先端付近で動脈内の血管変性が生じて血管が閉塞すること。
・アテローム形成による閉塞
⇨血管変性による閉塞は、穿通枝先端付近の部分に生じるが、アテローム形成による閉塞は穿通枝近位部にアテロームが形成されて血管が閉塞すること。
このアテローム形成による閉塞は、梗塞巣が進行性に増大するBADタイプに移行することがあるため要注意である。
・血行力学性による閉塞
⇨主幹動脈に動脈硬化などによる狭窄があると、主幹動脈から遠い位置にある動脈への血流量が減少します。その状態で血圧低下などで血流量が低下すると、主幹動脈から遠い位置にある領域で脳梗塞が生じること。
血行力学性による閉塞では、主幹動脈の灌流領域の境界に生じます(分水嶺梗塞)。
ラクナ梗塞では、レンズ核線条体動脈(穿通枝)に生じやすいと言われています。
●ラクナ梗塞の症状
ラクナ梗塞は、梗塞部位によって典型的な症状を呈し、ラクナ症候群と呼ばれています。
一般的に意識障害や高次脳機能障害は生じないとされています。
名称 | 症状 | 障害部位 |
純粋運動性不全片麻痺 | 顔面を含む対側半身の不全麻痺 舌の対側偏位 構音障害 感覚障害や運動失調は伴わない | 内包後脚 放線冠 橋底部 延髄腹側 |
純粋感覚性脳卒中 | 対側顔面と半身の感覚障害 運動麻痺や運動失調は伴わない | 視床 |
運動失調性不全片麻痺 | 顔面を含む対側半身の軽度の運動麻痺と運動失調 | 内包後脚 放線冠 橋上部腹側 |
構音障害-手不器用症候群 | 構音障害 対側半身の巧緻運動障害 | 橋上部腹側 内包膝部 放線冠 |
感覚運動性脳卒中 | 顔面を含む対側半身の運動麻痺と感覚障害 | 内包後脚 放線冠 視床 |
まとめ
- 脳梗塞は病型分類(TOAST分類)として、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、他の原因による脳梗塞、原因不明の脳梗塞(ESUS)に分けられる。
- 発生機序による分類(NINDS)分類として、血栓性脳梗塞、塞栓性脳梗塞、血行力学性脳梗塞に分けられる。
- ラクナ梗塞とは、直径1㎜以下の穿通枝動脈の閉塞による直径15㎜以下の梗塞。
- ラクナ梗塞の主な原因として、血管変性、アテローム形成、血行力学性がある。
- ラクナ梗塞は、梗塞部位によって典型的な症状を呈し、ラクナ症候群と言われる。