脳卒中は、臨床現場においてリハビリテーション職者が関わる代表的な疾患の一つです。
脳卒中発症患者数は年々減少傾向ではありますが、年間100万人を超えている現状です。
今回は脳卒中の分類と疫学についてお話していきます。
今回のお話で使用している参考書籍です。
今回の内容
- 脳卒中の分類
- 脳卒中の疫学
脳卒中の分類
脳卒中の分類は大きく分けて、出血性脳卒中と虚血性脳卒中の2つに分けられます。
脳卒中の分類を図に示していますので参考にしてください。
出血性脳卒中は、『くも膜下出血』と『脳出血』に分けられます。
『くも膜下出血』とは、脳表面の軟膜とくも膜の間のくも膜下腔で出血が生じることです。
『脳出血』とは、脳実質内の血管から出血が生じることです。
虚血性脳卒中は、『一過性脳虚血発作(TIA)』と『脳梗塞』に分けられます。
『一過性脳虚血発作』は、英語でTransient Ischemic Attackといい、それを略してTIAと言われています。
『TIA』は、脳血管が閉塞や狭窄を起こし、運動麻痺や呂律困難などの神経症状を呈するが、脳梗塞となる前に血流障害が改善することで神経症状が消失するものを言います。
『脳梗塞』とは、脳を栄養している脳血管が狭窄や閉塞によって虚血状態となり、脳細胞が壊死した状態のことを言います。
脳卒中の疫学
●死因別死亡率の推移
脳血管障害による死亡率は、1954年頃~1979年頃まで死亡率の第1位となっていました。
死亡率は1970年頃をピークに現在も低下傾向となっており、現在では脳血管障害による死亡率は全体の第4位となっています(第1位:がん、第2位:心疾患、第3位:老衰、第5位:肺炎)。
これは、現代の脳卒中治療における技術の発展による、救命率の向上が影響していると考えられています。
●脳卒中全体の疫学
厚生労働省 「脳血管疾患患者数の状況」
厚生労働省の患者調査では、脳血管障害患者の数は年々減少傾向となっており、2017年で111.5万人となっています。
男女比では、脳卒中は女性に比して男性が多い傾向となっています。
●病態ごとの疫学
日本脳卒中データバンク 「脳卒中レジストリを用いた我が国の脳卒中診療実態の把握」報告書2023年
日本脳卒中データバンクの2023年年次報告の報告書では、脳梗塞が73.0%、脳出血が18.7%、くも膜下出血が4.6%、TIAが3.7%となっています。
男性では、脳梗塞75.6%、脳出血18.3%、TIA3.6%、くも膜下出血2.5%となっています。
女性では、脳梗塞69.6%、脳出血19.3%、くも膜下出血7.3%、TIA3.7%となっています。
全体を通して、脳卒中の中で脳梗塞の発症比率が高いですが、男性に比して女性では、脳出血やくも膜下出血といった出血性脳卒中の比率が高くなる傾向を認めます。
●脳卒中患者の入院中の合併症
日本脳卒中データバンクの2022年年次報告の報告書では、脳卒中患者の入院中合併症として、肺炎、尿路感染、心不全の割合が高くなっています。
死因別死亡率の推移でも述べたように、脳卒中患者は肺炎や心不全など死亡率の高い疾患に合併しやすいので注意が必要となります。
特に脳卒中において、誤嚥性肺炎は合併症として最も多い疾患となります。
●脳卒中発症予防について
脳卒中発症予防には、発症のリスク因子となっている要因を予防する必要があります。
脳卒中のリスク因子となるものとして、
・高血圧 ⇨ 脳卒中全般のリスク因子
・糖尿病 ⇨ 脳梗塞
・脂質異常症 ⇨ 脳梗塞
・喫煙 ⇨ 脳梗塞とくも膜下出血
・飲酒 ⇨ 脳出血とくも膜下出血
・心房細動 ⇨ 脳梗塞(心原性)
・慢性腎臓病 ⇨ 脳卒中全般
・肥満 ⇨ 脳卒中全般
・睡眠時無呼吸 ⇨ 脳卒中全般
などがあります。
特に高血圧は脳卒中のどの病態にも発症のリスクがあり、脳卒中予防の分野では最も注意が必要とされています。
高血圧は、内服薬にて降圧コントロールが可能ですが、運動(運動療法)でも血圧を下げる効果が得られるとされています。
特に有酸素運動や持久力運動では、収縮期血圧2~5mmHg、拡張期血圧1~4mmHgの低下が期待されると言われています。
運動は短期的に行うのではなく、毎日30分以上行うことが望ましいとされています。
また、様々な研究報告からも有酸素運動や持久力運動は血圧低下作用だけでなく、肥満改善、糖尿病発症の軽減、脂質異常の改善など脳卒中発症危険因子を改善させることが言えます。
よって、脳卒中発症予防には『運動』が最も有効であると言えます。
まとめ
- 脳卒中は出血性脳卒中と虚血性脳卒中に分けられる。
- 出血性脳卒中はくも膜下出血(SAH)と脳出血に分けられる。
- 虚血性脳卒中は一過性脳虚血発作(TIA)と脳梗塞に分けられる。
- 脳血管障害による死亡率は死因の第4位である。
- 2022年における脳卒中の病態ごとの疫学では、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作の順に多い。
- 脳卒中の発症危険因子としては様々あるが、有酸素運動や持久力運動が予防として有効とされている。